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三日に一度くらい書けたらいいなの日記。たまにみじかい話も書きます。
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いまごろバレンタイン
不二先輩誕生日おめでとうございました! せっかく29日あったのになんもできんくて自分にがっかりです…。
ていうか最近更新も小話もぜんぜん書けてなくてほんとすいません…サイトやってる意味あんのかこれ。
こんな状態なのに覗きにきてくださってる方、拍手してくださる方、ほんとうにありがとうございます…!

続きからジロ跡のバレンタインネタです。ラブくないです。通常運転です。
ぶっちぎりで出遅れててあれなんですが、まだホワイトデー前だから許されるかなって! 思ってですね!

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おめでとう慈郎さん。

(テニス/ジロ跡)



 嫉妬という感情に縁がない、そもそもそんなもの漢字からして書けない。
 そんな慈郎を跡部はもはや笑いすらせず、「おまえはほんとに常識がねえな」と目もくれずに切り捨てるだけだ。
 しっとって漢字で書けるのって常識なの?
 その些細な疑問は慈郎の意識にめずらしく根深く残り、ひと晩たってもまだまったく忘れる気配がないくらいにはぴかぴかと鮮明だったので、慈郎はとりあえず紙(朝刊に挟まっていた広告の裏)と鉛筆(妹の色鉛筆セットから適当に抜いてきた青色)を持って、「しっとって書けますか」と翌日学校で聞き回った。
 向日は書けなかった。
 宍戸も書けなかった。
 滝は書けた、さっすがー。
 日吉も書けた、わかしくん字ーきれいねって言ったらなんかすげーにらまれた。
 忍足も書けた。なんでだろうちょっといや。
 で、慈郎的結論。中学生が「しっと」を漢字で書けるというのは地球の日本人の常識ではなくて、あとべ星のあとべ星人の常識である。以上!
「なあジローおまえ」
「あい」
「誕生日近いよな」
「朝から夜までデートして!」
「辞書買ってやる」
「ちゃんと早起きするから!」
「広辞苑ていう凶器みてえな分厚いのを買ってやる」
「いらねえよバカ!」
 慈郎が丸めて投げつけた広告を跡部は顔の前であっさりつかみ取り、不愉快そうにうっすらと眉をひそめて紙を広げた。あらわれたスーパーの特売情報に不審げに眉間のしわを深めたが、裏面に並ぶいくつかの「嫉妬」の文字を見ると、途端に鼻で笑った。
「広辞苑がいやなら何もやらねえからな」
 勝ち誇ったように口角を上げ、席を立って教室を出ていこうとする跡部の背中に慈郎は今度は青鉛筆を投げつけようとして、けれど腕を振りかぶったところで思いとどまった。この青鉛筆は妹のものなので。妹はあとべ星人が大好きなので。
「辞書もらってあげるからデートして」
 慈郎が青鉛筆を握りしめた腕をおろして口をとがらせると、跡部は振り返ってあきれたように息をついた。
「なんっだその図々しい提案は」
「オメエの要求のんであげるって言ってんの」
「誰がいつ何を要求したよ、あァ? おまえほんとに常識ねえな」
「部活ないのにどこいくの」
「人の話も聞かねえしな」
 今日はオフ日なのに、跡部はラケットキャリーを担いで明らかにコートに行こうとしている。跡部だって人の話を、昨日の慈郎の話を聞いていなかったのじゃないか、今日は一緒にテニスショップに行ってくれると言ったのに。
 慈郎の恨みがましい視線を受けて約束を思い出したらしく、ああ、と跡部は若干気まずそうにまばたいた。
「すこし打っていくぐらい構わねえだろ。付き合えジロー」
「テニス中毒」
 慈郎が呟くと、跡部は困ったように薄く笑った。こういうときだけ普段の尊大さのかけらもない笑い方をする、跡部のそんな素直さはいつだって慈郎の胸の奥底をちりちりと引っ掻く。
 あれ、これってもしかしてしっと?
 滝や日吉の青い筆跡が慈郎の頭の中でくるくる回る、文字の形は判然としない、慈郎はきっとこの先高校生になっても、もしかしたら大人になってもずっと、「嫉妬」と書けない人生を送るのかもしれない。
 文字なんて知らなくたって生きられる、それならいっそ感情も知らずにいられればよかった。
 テニスに嫉妬。
(どうしようそんなの絶対に勝てない)
 跡部の世界を敵に回すようなもの。



***

この話がだいぶ前(いま確かめたら3年前とか…ひいい)に更新したジロ誕話につながるとかつながらないとか…。
慈郎さん誕生日おめでとう!
なんか知りませんがほんともうかわいくない慈郎が好きだだいすきだ。
でも今回の慈郎はわたしが書いたにしてはかわいいほうだと思 いえスイマセン。
今夜はひさびさにヤンジロ探しの旅に出ようかと思います。

拍手ありがとうございました!

不二おめでとーさま前日短文。
(テニス/36/いつものことですが不二がだいぶキャラ崩壊と思われますのですいません)



 隣で菊丸がにやにやしている。
 今日は二月二十八日である。
 明日は三月一日である。
 つまり今年は不二の誕生日がない。
 だから菊丸が、朝からずっとにやにやしている。
(英二うぜえなあ)
 そう思いはするものの、それこそ朝からもうずっと百回ぐらい思ってはいるものの、不二周助たるもの「うぜえ」なんて品格の崩壊しきった若者言葉を口にしてはならない。そんな日本語存じ上げませんというさわやか極まりない顔をしていなくてはならない。言葉も表情も立ち居振る舞いもうつくしく穏やかで気品あふれる不二先輩、ていう立ち位置絶対死守、悔いなく青春を謳歌するために!(なんて実はぜんぜん思っていないのになぜだか光の速さで身体が条件反射するんである、主に女子、中でも後輩の女子の前では特に)
 隣の席の菊丸をなるべく視界に入れないように、不二は机に広げた楽譜のプリントに目を落とす。広い音楽室にはグランドピアノの伴奏が鳴り響き、音大声楽科出身の音楽教師が卒業歌の手本を熱唱中である。
 楽譜を目で追いながら不二があくびを噛みころしていると、隣で菊丸が口元も隠さずに大きなあくびを漏らした。目の前の楽譜を見ているのに結局は隣の菊丸の動きまで捕捉してしまうこの視野の広さが、いまこの瞬間は残念でならない。テニスで役に立つものの大半が、コート外で菊丸と接する際にはささやかな弊害に変じる気がする。
 ふあああんむ、と口をとじると、菊丸は今度は鼻歌を歌い出した。オリコンのウィークリーランキング一位の曲を軽快になぞるその音程は、室内に響き渡るピアノと歌声の大音量にもまったくぶれることがない。菊丸の歌唱力は不二も認めるところだが、ハン、だからなんすか? という気分である。オリコン一位のその曲を歌う人気女性アイドルグループに不二は興味がない、最近彼女たちに夢中の菊丸にも興味がない。
 菊丸の口ずさむJポップと教師の歌う卒業歌とが奇妙に絡み合って耳にすべり込み、じんわりとした不快感に変わる。不二は菊丸のいる左側の耳をふさぎ、横目に彼をにらんだ。
 本来不二と菊丸の席は隣同士ではないのだが、音楽室や美術室では教師の放任により自由席制度が定着してしまっていて、そんなとき菊丸は決まって不二の隣をキープする。というような鬱陶し、もとい、睦まじい事実はまったくなくて、菊丸の選ぶ席はそのときどきでまちまちだ。だるいと言っては最後列の端に引きこもり、騒ぎたいときは廊下側のうしろのほうで男子と群れて、大抵は女子と女子のあいだに座っていて、たまに理由もなく不二の隣にくる。隣に座ったからといって特筆すべき会話ややり取りがあるわけではないので、本当に理由はないらしい。
 しかし今日に限っては理由があって隣にいる。ハン、と不二はまた鼻で笑いたい気分になる。
「祝いたいなら祝っていいよ」
 百一回目ぐらいの(英二うぜえなあ)をこころの中で吐き出しながら面倒にまかせてこっちから話を振ってやると、菊丸はテニスコートで跳ね回っているときみたいに目を輝かせた。
「えっだって不二の誕生日今日じゃないじゃん」
「このあいだ見たスニーカーほしいなあ」
「でも不二の誕生日今日じゃないじゃん」
「現品限りって書いてあったよね」
「不二の誕生日今日じゃないじゃーん」
 実に楽しげに声を弾ませる一方で菊丸が携帯を取り出したので、気分屋の名のとおりこのくだらない応酬に早くも飽きてくれたようだと不二は不覚にも内心安堵した。が、菊丸がにやにやと見せて寄越した携帯の画面には、先日二人でショッピングモールをふらついた際に不二の目に留まったスニーカーが写っていて、おまけにそれを履いているのが自宅の玄関先でモデル立ちをした超決め顔の菊丸だったので、
「英二うぜえええ!!」
 不二のあんなにでっかい声はじめて聞いた、と後日菊丸は言った。わりと本気で喉輪をしたら彼にしてはめずらしく切羽詰った様子で謝ってきたのでその場は穏便にすませてやったが、向こう一年間は許さないと決めている。
 生まれて十五年目の二月二十八日、不二は音楽教師に怒られて、担任にもチクられて怒られて、その日一日クラスがなんとなくざわついていて、「品行方正な不二周助」の評判はちょっと下がったようである。



* * *

祝ってなくてすいません。ていう謝罪がもはやデフォルトですいません。
あと閏年の計算あってるかどうか不安なんですが確認してる時間なかったっていうだめっぷりでほんとすいません…。
毎回言ってますが、こういう不二が、こういう36が好きです…。

拍手ありがとうございます、とってもうれしいです。
日記はまたあらためて書きます。
じろうさんおめでとう!

(テニス/ジロ跡とがっくん)



 ガン、と蹴飛ばしたら案外あっさり吹っ飛んでしまった。ブラボーおれの脚力、サッカー部に入ればよかったかも。
 バラバラとゴミを撒き散らしながらとても軽いもののように宙を舞うゴミ箱の向こうに跡部の姿を見て、慈郎は無駄に目をみひらいた。
 もう放課後なのに眠くない。放課後だから眠くない。今日はそっこー帰って妹に絵本を読んでやってそれから兄ちゃんとゲームをする予定なのである。今日こそあのうんこ兄貴をフルボッコにするの。だからおれは忙しいの。部活? 知るか。
 慈郎がリュックをつかみ、ドアの敷居の上にけたたましい音を立てて落下したゴミ箱をまたいでそのまま教室を出ようとしても、廊下に立った跡部は何も言わなかった。腹のすいたけものみたいに尖った目をしておきながらまるで睨んでいるとも見えない、器用にただ冷たいだけの視線を慈郎に向けたまま、足元に転がってきた紙屑をスマートによけた。跡部の爪先に届かなかった紙屑がさっき自分が丸めて捨てた来週の練習試合のオーダー表であると慈郎にはわかった。
 慈郎がシングルス1だったから捨てた。跡部の名前がなかったから、捨てた。
 慈郎は跡部の横をすり抜けて廊下を歩き出した。てめえジロー待ちやがれ、と怒鳴らない跡部なんてきらいだ。
「跡部がおまえの教室んとこでゴミ拾ってたぜ」
 昇降口で慈郎が靴を履き替えていると、背後で岳人の声がした。慈郎は振り返らないまま、あっそう、と答えた。
「帰んのかよ」
「おれはいそがしーの」
「レギュラー落ちても知らねえぞ」
「おれシングルス1だから落ちるわけねーの」
 スニーカーに履き替えた爪先を乱暴に地面に打ちつけながら慈郎は振り返る。ジャージ姿の岳人は慈郎の据わった目つきを正面から受け止めると、遠慮なく嫌そうな顔をしてため息をついた。
「あのなジロー、跡部が来週の試合に出ねえのは」
「こーしんをそだてるためでしょ。いろいろ考えてるんでしょ、部長として」
 オーダー表には、慈郎以外に正レギュラーの名前がなかった。シングルス1の慈郎に信を置いて、慈郎と準レギュラーだけで勝ちを取りにいく布陣が敷かれていた。
 馬っ鹿じゃねえの。
「じゃーね、がっくん」
 手を振って昇降口を出ようとする慈郎に、手の代わりにラケットを振り返しながら、さして興味もなさそうな口調で岳人が尋ねる。
「おまえ跡部の何が気に入らないわけ」
「ばかなところ!」
 叫んで、慈郎は駆け出した。あっそう、と呆れたような笑い出しそうな岳人の声が追いかけてきた。
 跡部に信頼されるより大事なことが慈郎にはある、それをわかっていない跡部なんて大きらいだ。



***

じろう誕生日おめでとう!
例によって誕生日には関係ないわ、めでたくもかわいくもないわ、その上わかりにくいわでごめんなさい。

SDKS!!

(テニス/赤也と柳生/テーマ:なんも考えないで書く)



 がっしーと後ろから制服のシャツの襟首をネクタイごとつかまれて当然首が絞まって殺す気かてめ殺すぞと駄犬の短絡さで唸りつつ振り返った切原の眼前には、
「殺す気かてめこ(ろすぞ、って、やべえええええ)」
「殺しませんが目上に対する物言いとしては感心しませんね」
「誰だか知んなかったんで!」
 表情も声色もいつも通り静穏すぎる柳生が立っていた。柳生は切原の潔い言い訳に短く息をつくと存外骨太く乱暴な固い指を襟首から離し切原の進行方向の足元を指差した。若干訝りながら切原が目を向けるとなぜだか部室のドアの前にあるはずのない消火器が横たわっていて携帯を片手に完全な前方不注意だった切原がその赤い丸い物体に蹴つまずくか乗り上げるかしていたに違いないのを柳生が未然に防いでくれたのだとわかったので、
「ありがとうございました。なんすかこれ」
「仁王くんが昼休みに運んできたようです」
「なんのために」
「知りたくもありません」
 切原は素直に頭を下げたが柳生の目は消火器にのみ向けられていて眼鏡のレンズ越しにくだらぬと常の通り険しくもあまりにもめずらしい軽薄さで侮蔑を吐き捨てていた。切原はすこし背筋が寒くなって話を、
「いまニオ先輩からメールきたんすけど、」
 逸らすのに大いに失敗して滑りやすい自分の口と機転のきかなさを呪った。そのあいだにも柳生はよろしいですかと切原にてのひらを差し出し携帯の拝借を丁寧ながら堅固に申し出て切原に拒否の道などあるべくもなく件のメール画面をひらいたままの携帯をおそるおそる柳生の手に託し、
「あの、それ、どういう意味なんすかね。ニオ先輩の冗談てわかりにくいっすよね!」
 せめて明るく同意を求めてみたが柳生は答えず結んだままの薄い唇を横に引くと携帯のボタンにのせた指を淀みなく高速で動かしどうやら仁王にメールを返信したようだった。用が済むなり無表情な礼とともに返却された携帯の送信済みの文章を確かめた切原はその文面と先ほどの仁王からのメールの内容を総合して考えて恐怖に震え上がり携帯を捨てたくなった。しかしそんなことはできないしできたところで意味もないので、
「これ消していいすかいますぐ両方消していいすか!」
「ええどうぞ」
 柳生に許しを得て限りなく呪いみたいな二通をマッハで削除した。返信されたメールは切原の携帯が発信源であっても文体的内容的に柳生が書いたものと知れるのだけが救いではあるが心底おそろしいので、
「今日ずっと柳生先輩といさしてください!」
「構いませんよ」
「うちまで一緒に帰ってください!」
「私でよろしければ」
 柳生が守ってくれるのならこれ以上の安全はないと安堵したのに、
「ニオ先輩に俺は関係ないってちゃんと言っ」
「ははは、もちろんですとも」
 その紳士たる優美な笑みと口約束のなんと軽々しいこと!



***

これはひどい。やっぱ考えないとだめだと思いました。
 

●●●●

(テニス/ジロ跡)

 どうしてこころから素直にただひとこと、言えないの。
(ごめんね)
 自分の辞書にはまるでその言葉が存在しないみたいだと慈郎は思った。ページを破って丸めて捨てた。あるいはごく普通の消しゴムで奇跡的に消した。あるいは、生まれるときにおかあさんのお腹に置いてきた。
(ごめんね)
 跡部は眠っている。部室の部長ソファの上で靴を脱いだ両足を抱えて片膝に右頬を押しつけて、すこしだけ眉をひそめて疲れたように目を閉じている。
 こうやって身体を丸めて幼い眠り方をする跡部を、慈郎はもう何度も見たことがあるけれど、ほかの仲間たちは誰も知らないようだ。以前向日に言ったら想像できねーと笑われた。忍足に言ったら興味なさそうに生返事をされた。滝に言ったら困ったような微笑を返されて、宍戸に言ったら、なんだか複雑そうな顔で、おまえそれあんま人に言うな、と言われた。だから、ほかには誰にも言っていない。
 跡部の眉間の浅いしわを眺めながら、今日はなにをあやまろうと思っていたんだっけと慈郎は考える。ほかならぬ跡部その人が言っていたけれど、慈郎は恒常的にろくなことをしないので、特に跡部に対して本当にろくでもないことしかしないので、謝る材料なら毎日それこそ一分一秒ごとに降り積もる塵芥のように、生ある限り途絶えることのない呼吸のように。
 ちゃんと謝ってみたことだって、もちろんある。だけど、跡部と慈郎の「ちゃんと」の物差しは、絶望的に長さも正確さもちがったみたいだった。
 そんなもんはいらねえんだよ、と跡部は慈郎の「ごめんね」を撥ねつけた。かすかに目を眇めただけで、まるで怒った様子もなしに、ただため息をつくのと同じまつげの伏せ方をして。
『思ってもいねえことを口に出すな。言う意味も、聞く価値もねえ』
 いま跡部がしゃべったのは果たして日本語だったろうかと首を傾げるくらい、最初慈郎には意味がわからなかった。
(?)
(ちゃんと思ってるから言ったんだよ?)
(なにオメエその傷ついたみたいな、)
(あれ?)
 ああなんだ跡部はおれを信じてないんだ。
 と、思った瞬間、慈郎の頭と理性は沸騰した。部活中のテニスコートの真ん中で跡部に殴りかかって、もちろん周囲の部員たちにすぐに力尽くで引き剥がされたけれど、それでも若干の血を見た。
 そんなことがあってから、慈郎は跡部にごめんねを言えなくなった。ちがう、二度と言ってやんねーよと腹の底がずっと沸騰中だったので、言わなくなった。ちがうちがう、言えなかった。跡部に信じてもらえないのがこわくて、言えなくなった。
 こころから言えば信じてくれるし笑ってだってくれるとわかっていたけれど、一度拒絶された事実はいとも簡単に慈郎の言葉と勇気を竦ませた。こう見えて慈郎だって人並みに打たれ弱いし、傷つくし、何よりあのときの「ごめんね」は、慈郎なりの精一杯の本気だったのだ。
 許してくれなくていいから信じてほしい、なんて、切実で安っぽくて甘ったれた真摯なことを慈郎が願っているなんて、きっと跡部は考えもしないんだろう。
 慈郎が足音を忍ばせてソファの傍らに立つと、跡部はかすかにまぶたを震わせた。しゃがみ込んで跡部の足首をつかみ、跡部、と小声で呼ぶと、跡部は途端に目をひらいて慈郎に焦点を合わせた。六限目が自習になったので部活までのあいだ仮眠を取ると言っていたらしいが(そうと知ってすぐ慈郎は跡部を追って部室にきた、もちろん自分のクラスは自習ではない)、こんなに簡単に覚めてしまうような不自由な眠り方、眠っているうちに入らないと慈郎は思った。
「あとべ、」
「何さぼってやがる、さっさと戻れ」
(ごめんね)
「だいすきだよ」
 跡部は一瞬眉を吊り上げ、短くため息をつき、それから力の抜けたような顔で笑うと、身を乗り出して慈郎の左の眉のあたりに唇を押しつけた。そんな半端なキスで満足できるわけがなかったけれど、慈郎はすごく泣きたくなった。
 よかった、信じてくれた。
 おれのいちばん本当のことを、信じてくれた。



***
慈郎、誕生日おめでとう!
私が同人にハマったりサイトつくったりするきっかけになった子です。
一生だいすき。

↑の話はジロ誕とはなんの関係もありませんすいません…(言うまでも ないわ!)
誕生日ネタ思いつかなかったにしても、せめてもうちょっとかわいい話書けなかったのか、ていう、ね。いつも同じことばっか謝っててほんとすいまっせん!
慈郎への愛だけは あるんだよ! よ!!

おそろしいほど一方的な恋だ

(テニス/赤28)

 なにがいけなかったんですか、と切原が頭を抱えてしゃがみ込んだ。彼を追って自分も優しく膝を折り、こどもをあやすようにその場凌ぎのやわらかく心ない魔法の言葉を吐く、紳士たるものその程度の悪行は容易だった。しかしまるでその気が起こらず、このように性根の冷たい男をなぜいつしか誰もが紳士などと呼ぶようになったのかといまさらの疑問に意識を逸脱させながら、柳生は美しく背筋を伸ばしたままでいた。
 グラウンド外周のランニングコースの途中で足を止める二人を、男子テニス部員たちが次々に追い抜いていく。休んでんじゃねえぞワカメえええ、と怒鳴り声の尾を引いて丸井が爆走していったあと、柳が若干何か含んだ目で柳生を見ながら通り過ぎた。切原に害を為すなという言外の非難が含まれた針のようなその視線は心外だったが、疑うのなら切原を柳生から保護すればいいのにそうしないあの男は存外横着だ。
 元来練習熱心な切原がいまランニング中に足を止めてしまった原因も、何がいけなかったのかという彼の問いへの正答も、パズルの最後の一ピースのようにこの世にひとつしか存在しない。確固たる悪因、と柳生は薄く眉をひそめる。
 切原の困惑や衝動、その飛び火で柳生が余計な気を煩うこと、すべて仁王雅治のせいだ。彼が、仁王雅治と柳生比呂士という個の境界を限りなく曖昧にしてしまった。
 生まれついての別人、それもそれぞれ自我のある生きた人間同士の存在が混じり合い判別つかなくなるなど柳生にとっては絵空事だ。しかし何人もの他人が一時はその架空に取り込まれ、特に切原はいまだ強く影響を引きずり翻弄されている。柳生と仁王の入れ替わりは表面的物理的な偽りであり、戦略とも呼べない単なる悪趣味だと彼だってよく理解していたはずなのに。もとより種を明かしていてなお成立するペテンなど聞いたことがない。
 ペテンではなく呪いなのだと思えばよほど納得がいった、仁王雅治は人の身でありながら魔法を使うのかもしれない。こどもじみて低俗な魔法を。
 傍らの樹木からギイイイイと割れるような蝉の声が降り、柳生は我に返る。眼前の日向にはまだ切原がしゃがみ込んでいて、伏せた頭を抱え込む腕と項に汗が滲んでいる。
 呪いをかけたのならもういい加減解いてやるべきだと柳生は思った。胸倉つかみ上げてでも解除の方法を吐かせたいと滅多に表沙汰にしない本能的な衝動が込み上げ、次々と脇を走り過ぎていくチームメイトたちを目で追ったが、目立つと同時に存在感を殺すことにも長けた魔法使いの姿はない。
 なにがいけないんですか、とまた切原が言った。土に蒔いた瞬間芽吹いて一夜で壁を覆い尽くす蔓薔薇のごとき言葉だと思った。ああ、これもまた呪詛だ。
「なんでだめなんすか」
 切原のひかる目が柳生を見上げた。じわりと息苦しさに柳生は捕われる。真に呪いをかけられたのは自分であるのかもしれない。
「俺はアンタも仁王先輩も好きなんだ欲しいんだ両方本気なんですしょうがないじゃないか!!」



仁王がだいすき!ていう勢いで書いたはずなのになんだこれは。仁王と柳生に同時にホレてしまう赤也が大好きです。相手に翻弄されつつ相手のこころに牙を食い込ませることに成功している無敵のこどもです。仁王は基本他人事面だけど、そのうち表舞台に引っぱり出されてしまえばいい。

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