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(テニス/ジロ跡)
どうしてこころから素直にただひとこと、言えないの。
(ごめんね)
自分の辞書にはまるでその言葉が存在しないみたいだと慈郎は思った。ページを破って丸めて捨てた。あるいはごく普通の消しゴムで奇跡的に消した。あるいは、生まれるときにおかあさんのお腹に置いてきた。
(ごめんね)
跡部は眠っている。部室の部長ソファの上で靴を脱いだ両足を抱えて片膝に右頬を押しつけて、すこしだけ眉をひそめて疲れたように目を閉じている。
こうやって身体を丸めて幼い眠り方をする跡部を、慈郎はもう何度も見たことがあるけれど、ほかの仲間たちは誰も知らないようだ。以前向日に言ったら想像できねーと笑われた。忍足に言ったら興味なさそうに生返事をされた。滝に言ったら困ったような微笑を返されて、宍戸に言ったら、なんだか複雑そうな顔で、おまえそれあんま人に言うな、と言われた。だから、ほかには誰にも言っていない。
跡部の眉間の浅いしわを眺めながら、今日はなにをあやまろうと思っていたんだっけと慈郎は考える。ほかならぬ跡部その人が言っていたけれど、慈郎は恒常的にろくなことをしないので、特に跡部に対して本当にろくでもないことしかしないので、謝る材料なら毎日それこそ一分一秒ごとに降り積もる塵芥のように、生ある限り途絶えることのない呼吸のように。
ちゃんと謝ってみたことだって、もちろんある。だけど、跡部と慈郎の「ちゃんと」の物差しは、絶望的に長さも正確さもちがったみたいだった。
そんなもんはいらねえんだよ、と跡部は慈郎の「ごめんね」を撥ねつけた。かすかに目を眇めただけで、まるで怒った様子もなしに、ただため息をつくのと同じまつげの伏せ方をして。
『思ってもいねえことを口に出すな。言う意味も、聞く価値もねえ』
いま跡部がしゃべったのは果たして日本語だったろうかと首を傾げるくらい、最初慈郎には意味がわからなかった。
(?)
(ちゃんと思ってるから言ったんだよ?)
(なにオメエその傷ついたみたいな、)
(あれ?)
ああなんだ跡部はおれを信じてないんだ。
と、思った瞬間、慈郎の頭と理性は沸騰した。部活中のテニスコートの真ん中で跡部に殴りかかって、もちろん周囲の部員たちにすぐに力尽くで引き剥がされたけれど、それでも若干の血を見た。
そんなことがあってから、慈郎は跡部にごめんねを言えなくなった。ちがう、二度と言ってやんねーよと腹の底がずっと沸騰中だったので、言わなくなった。ちがうちがう、言えなかった。跡部に信じてもらえないのがこわくて、言えなくなった。
こころから言えば信じてくれるし笑ってだってくれるとわかっていたけれど、一度拒絶された事実はいとも簡単に慈郎の言葉と勇気を竦ませた。こう見えて慈郎だって人並みに打たれ弱いし、傷つくし、何よりあのときの「ごめんね」は、慈郎なりの精一杯の本気だったのだ。
許してくれなくていいから信じてほしい、なんて、切実で安っぽくて甘ったれた真摯なことを慈郎が願っているなんて、きっと跡部は考えもしないんだろう。
慈郎が足音を忍ばせてソファの傍らに立つと、跡部はかすかにまぶたを震わせた。しゃがみ込んで跡部の足首をつかみ、跡部、と小声で呼ぶと、跡部は途端に目をひらいて慈郎に焦点を合わせた。六限目が自習になったので部活までのあいだ仮眠を取ると言っていたらしいが(そうと知ってすぐ慈郎は跡部を追って部室にきた、もちろん自分のクラスは自習ではない)、こんなに簡単に覚めてしまうような不自由な眠り方、眠っているうちに入らないと慈郎は思った。
「あとべ、」
「何さぼってやがる、さっさと戻れ」
(ごめんね)
「だいすきだよ」
跡部は一瞬眉を吊り上げ、短くため息をつき、それから力の抜けたような顔で笑うと、身を乗り出して慈郎の左の眉のあたりに唇を押しつけた。そんな半端なキスで満足できるわけがなかったけれど、慈郎はすごく泣きたくなった。
よかった、信じてくれた。
おれのいちばん本当のことを、信じてくれた。
***
慈郎、誕生日おめでとう!
私が同人にハマったりサイトつくったりするきっかけになった子です。
一生だいすき。
↑の話はジロ誕とはなんの関係もありませんすいません…(言うまでも ないわ!)
誕生日ネタ思いつかなかったにしても、せめてもうちょっとかわいい話書けなかったのか、ていう、ね。いつも同じことばっか謝っててほんとすいまっせん!
慈郎への愛だけは あるんだよ! よ!!