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三日に一度くらい書けたらいいなの日記。たまにみじかい話も書きます。
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おそろしいほど一方的な恋だ

(テニス/赤28)

 なにがいけなかったんですか、と切原が頭を抱えてしゃがみ込んだ。彼を追って自分も優しく膝を折り、こどもをあやすようにその場凌ぎのやわらかく心ない魔法の言葉を吐く、紳士たるものその程度の悪行は容易だった。しかしまるでその気が起こらず、このように性根の冷たい男をなぜいつしか誰もが紳士などと呼ぶようになったのかといまさらの疑問に意識を逸脱させながら、柳生は美しく背筋を伸ばしたままでいた。
 グラウンド外周のランニングコースの途中で足を止める二人を、男子テニス部員たちが次々に追い抜いていく。休んでんじゃねえぞワカメえええ、と怒鳴り声の尾を引いて丸井が爆走していったあと、柳が若干何か含んだ目で柳生を見ながら通り過ぎた。切原に害を為すなという言外の非難が含まれた針のようなその視線は心外だったが、疑うのなら切原を柳生から保護すればいいのにそうしないあの男は存外横着だ。
 元来練習熱心な切原がいまランニング中に足を止めてしまった原因も、何がいけなかったのかという彼の問いへの正答も、パズルの最後の一ピースのようにこの世にひとつしか存在しない。確固たる悪因、と柳生は薄く眉をひそめる。
 切原の困惑や衝動、その飛び火で柳生が余計な気を煩うこと、すべて仁王雅治のせいだ。彼が、仁王雅治と柳生比呂士という個の境界を限りなく曖昧にしてしまった。
 生まれついての別人、それもそれぞれ自我のある生きた人間同士の存在が混じり合い判別つかなくなるなど柳生にとっては絵空事だ。しかし何人もの他人が一時はその架空に取り込まれ、特に切原はいまだ強く影響を引きずり翻弄されている。柳生と仁王の入れ替わりは表面的物理的な偽りであり、戦略とも呼べない単なる悪趣味だと彼だってよく理解していたはずなのに。もとより種を明かしていてなお成立するペテンなど聞いたことがない。
 ペテンではなく呪いなのだと思えばよほど納得がいった、仁王雅治は人の身でありながら魔法を使うのかもしれない。こどもじみて低俗な魔法を。
 傍らの樹木からギイイイイと割れるような蝉の声が降り、柳生は我に返る。眼前の日向にはまだ切原がしゃがみ込んでいて、伏せた頭を抱え込む腕と項に汗が滲んでいる。
 呪いをかけたのならもういい加減解いてやるべきだと柳生は思った。胸倉つかみ上げてでも解除の方法を吐かせたいと滅多に表沙汰にしない本能的な衝動が込み上げ、次々と脇を走り過ぎていくチームメイトたちを目で追ったが、目立つと同時に存在感を殺すことにも長けた魔法使いの姿はない。
 なにがいけないんですか、とまた切原が言った。土に蒔いた瞬間芽吹いて一夜で壁を覆い尽くす蔓薔薇のごとき言葉だと思った。ああ、これもまた呪詛だ。
「なんでだめなんすか」
 切原のひかる目が柳生を見上げた。じわりと息苦しさに柳生は捕われる。真に呪いをかけられたのは自分であるのかもしれない。
「俺はアンタも仁王先輩も好きなんだ欲しいんだ両方本気なんですしょうがないじゃないか!!」



仁王がだいすき!ていう勢いで書いたはずなのになんだこれは。仁王と柳生に同時にホレてしまう赤也が大好きです。相手に翻弄されつつ相手のこころに牙を食い込ませることに成功している無敵のこどもです。仁王は基本他人事面だけど、そのうち表舞台に引っぱり出されてしまえばいい。

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