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(テニス/赤也と柳生/テーマ:なんも考えないで書く)
がっしーと後ろから制服のシャツの襟首をネクタイごとつかまれて当然首が絞まって殺す気かてめ殺すぞと駄犬の短絡さで唸りつつ振り返った切原の眼前には、
「殺す気かてめこ(ろすぞ、って、やべえええええ)」
「殺しませんが目上に対する物言いとしては感心しませんね」
「誰だか知んなかったんで!」
表情も声色もいつも通り静穏すぎる柳生が立っていた。柳生は切原の潔い言い訳に短く息をつくと存外骨太く乱暴な固い指を襟首から離し切原の進行方向の足元を指差した。若干訝りながら切原が目を向けるとなぜだか部室のドアの前にあるはずのない消火器が横たわっていて携帯を片手に完全な前方不注意だった切原がその赤い丸い物体に蹴つまずくか乗り上げるかしていたに違いないのを柳生が未然に防いでくれたのだとわかったので、
「ありがとうございました。なんすかこれ」
「仁王くんが昼休みに運んできたようです」
「なんのために」
「知りたくもありません」
切原は素直に頭を下げたが柳生の目は消火器にのみ向けられていて眼鏡のレンズ越しにくだらぬと常の通り険しくもあまりにもめずらしい軽薄さで侮蔑を吐き捨てていた。切原はすこし背筋が寒くなって話を、
「いまニオ先輩からメールきたんすけど、」
逸らすのに大いに失敗して滑りやすい自分の口と機転のきかなさを呪った。そのあいだにも柳生はよろしいですかと切原にてのひらを差し出し携帯の拝借を丁寧ながら堅固に申し出て切原に拒否の道などあるべくもなく件のメール画面をひらいたままの携帯をおそるおそる柳生の手に託し、
「あの、それ、どういう意味なんすかね。ニオ先輩の冗談てわかりにくいっすよね!」
せめて明るく同意を求めてみたが柳生は答えず結んだままの薄い唇を横に引くと携帯のボタンにのせた指を淀みなく高速で動かしどうやら仁王にメールを返信したようだった。用が済むなり無表情な礼とともに返却された携帯の送信済みの文章を確かめた切原はその文面と先ほどの仁王からのメールの内容を総合して考えて恐怖に震え上がり携帯を捨てたくなった。しかしそんなことはできないしできたところで意味もないので、
「これ消していいすかいますぐ両方消していいすか!」
「ええどうぞ」
柳生に許しを得て限りなく呪いみたいな二通をマッハで削除した。返信されたメールは切原の携帯が発信源であっても文体的内容的に柳生が書いたものと知れるのだけが救いではあるが心底おそろしいので、
「今日ずっと柳生先輩といさしてください!」
「構いませんよ」
「うちまで一緒に帰ってください!」
「私でよろしければ」
柳生が守ってくれるのならこれ以上の安全はないと安堵したのに、
「ニオ先輩に俺は関係ないってちゃんと言っ」
「ははは、もちろんですとも」
その紳士たる優美な笑みと口約束のなんと軽々しいこと!
***
これはひどい。やっぱ考えないとだめだと思いました。