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三日に一度くらい書けたらいいなの日記。たまにみじかい話も書きます。
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Trust
(ぺよん/主花主/後ろ向きです)



 悪意のない罪だった。
 悪意で凝り固まった嫉妬だった。
 花村がもう死んでしまった人を思って泣くのが月森は嫌だった。
 花村がもう死んでしまった人を思って笑うのが月森は嫌だった。
 花村がもう死んでしまった人の美点を語るのが嫌だった花村が彼女を好きであり続ける事実が嫌だった。
「醜く死んだ人ほどうつくしく思い出されるものだものな」
 花村を失うとわかっていて月森は言った。季節二つ分の我慢をしたのでもういいと短気に諦めてとても優しく笑って吐いた。
 暴言は川音に洗われてなんの余韻もなく消えた。花村の心からは消えなければいいと残酷に思った。失う前にせめて傷つけたかった。花村にとってひどい人間になりたかった。
 月森を殴り倒して罵声を浴びせた花村は怒りに焼けた目で泣きそうな顔をしていた。拳は十分すぎるほど重たかったが本当はナイフで喉を裂かれたかったしかし花村を人殺しにはできない。
 河原にひとり残された月森の頬がすっかり腫れ上がったころ携帯が鳴った。
『当分お前の顔は見たくない』
 花村は馬鹿なんだろうかと月森は思った。花村の設定するところの「当分」を過ぎたら彼は月森を許す気でいるのだ。いつか許すと決めたのならいま許したも同じこと。なんて馬鹿野郎。
 花村の甘さが嫌だった。花村がその胸の穴を埋めるように寄せてくる好意が嫌だった。花村に許されるしあわせに泣きたくなる自分を月森は心底嫌悪した。
 強張る手から携帯を引き剥がして川に捨てた。もう死んでしまった人に心の奥で詫びた。彼女はその鬱屈した本音すら可憐でうつくしかった。口が裂けても花村には謝らない。
 花村のすべてを欲する月森の欲は醜く
 花村に恋する月森の気持ちはどこまでも
(俺はいつ花村を失うんだろう)
 うつくしいのだった。



***

センセイは臆病者。
 
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