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三日に一度くらい書けたらいいなの日記。たまにみじかい話も書きます。
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君はさくら
(おお振り/アベミハ)

 いつものことだが、練習を終えたときには日はとっぷりと暮れていた。めずらしく部員の中でかなり早めに着替え終わってしまった三橋は、明かりと談笑の声の漏れてくる部室の窓の下にちいさくまるくしゃがみ込み、ドキドキきょろきょろと付近を窺った。
 そばでは、三橋よりも先に帰り支度を済ませた巣山と栄口が立ち話をしている。センバツの準決が、と聞こえてくる二人の会話にひそかに聞き耳を立てながら、三橋はひらきっぱなしの部室のドアに落ち着きなく何度も目をやった。三橋のあとからは、まだ誰も出てこない。
 今日もみんなでコンビニまでいっしょかな。それともそれぞれテキトーに解散、かな。田島くんか泉くんが出てきたら、訊いたら教えてくれる、かな。
 部室の出入り口の幅に地面を照らしていたひかりの中に人影が揺れ、次に出てきたのは阿部だった。阿部は素早く視線を動かしてすぐに三橋を見つけると、無言のままちいさく手招きする。
 三橋は急いで立ちあがった。いっしょに帰ってくれるのかな、と思った。知り合って友達になってもう一年が経とうというのに、まだこんなことで緊張していると知れたらまた怒られるだろうか。
「三橋、」
 駆け寄った三橋に向かい、阿部は彼らしからぬ抑えた声で呼びかけた。ナイショ話! と反射的に無駄に背筋を伸ばして三橋はオレもちっちゃい声で話さなきゃと思ったけれど、
「桜見にいかないか」
「おっ、お花見!」
 阿部の言葉があまりにも予想を超えた場外ホームランだったので、即忘れて普段の彼に負けないでかい声を出してしまった。
 お花見! その響きに三橋の頭の中はキラキラと幸せ色に染まる。お花見なんてここ何年もいっていないし、こどもの頃だって両親と三人か多くても瑠里の一家が加わるくらいで、友達とみんなでなんて一度もしたことがない。
「お母さんに、お弁当つくってもらう、よ! 阿部くんも、みんなの分も、いっぱい!」
 興奮して犬みたいに息を弾ませて三橋が言うと、阿部は困ったような焦ったような変な顔の引きつらせ方をして、あーとかえーとか口ごもりながら頭を掻いた。
「いや、まあ、わかったそれは次のオフのお楽しみに取っとくとしてだ」
 ぐ、と阿部の手が三橋の手首をつかんだ。三橋の知るいつもの阿部のてのひらより、すこしつめたい気がした。
「とりあえずいまいこう、二人で」
「ふた、」
「ふたりで」
 三橋は慌ててこくこくと頷いた。阿部がほっとしたように表情をやわらげた。
(阿部くん、緊張してた?)
 阿部が緊張していたときに自分はただうれしくてポカポカしていたなんて、なんだか変だと思った。
 阿部に引っぱられ、三橋は歩き出す。そのとき、目の前にあるワイシャツの襟首に、見つけた。無意識に手を伸ばしながら、阿部くん、と呼ぶ。振り返り、すこし驚いたような顔をした阿部の襟首に淡いひとひらの、
「さくら、」
 
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