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三日に一度くらい書けたらいいなの日記。たまにみじかい話も書きます。
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(28赤也/遅れましたが仁王誕生日話ですがまったく祝ってはいません)(おまえ)

 仁王くんの? とたいして興味もなさそうに問い返すような柳生の声がして、赤也は部室に入ろうとドアノブをつかみかけていた手を思わず止めた。室内でする声を漏らさず聞き取ろうと耳を押し当てた途端ドアは勢いよくひらき、ガンと思いきり額の左側をぶつけると同時にベシと頬が潰れた。考えてみれば当たり前だ、ここは部室なんだから中にいる部員(柳生ほか三年生はすでに引退しているので厳密には元部員だけれど)は外に出てくるものだ。というか赤也こそ歴とした現部員なのだから堂々と入室すればよかっただけの話、聞き耳を立てる必要がどこに。
 痛みよりもむしろ自分のアホさ加減に衝撃を受けて額を押さえてしゃがみ込んでいると、何やってんだおまえ、と丸井の声が降ってきた。ドアをあけたのは丸井のようだ。馴染みの黄色ではなく自前の鮮やかすぎる赤いジャージにだらしなく片方だけ袖を通して、いつも通りもぐもぐ口を動かしている。
 ドアなんて普通にあけたって思いっきりあけたって結局あくんだからもっと静かにやさしーくあけらんねえのかよ、と逆恨み以外のなんでもなく赤也は黙って丸井を見あげた。鉄壁の無表情を装ったつもりだったのに沈黙の中に不平を読み取られたらしく、丸井の口元でみるみる膨らんでいた薄いグリーンの風船が不吉な音を立てて破裂した。
 ひっ、としゃがんだまま顔を庇うように赤也が身構えると(なんて不本意な条件反射!)、丸井は鼻で笑ってまたクチャクチャと口を動かした。ああなんてむかつくそしておそろしい笑顔。甘いりんごの匂いさえおそろしい、となかば本気で怯えはするものの、
「今日も練習出てくんスか。ヒマなの?」
 結局考えなしにそういう口をきいてしまう赤也なので、日常的に丸井の標的になっていても同情してくれる者はすくない、救いの手となるともっと絶望的にすくない。
「ヒ・マ・なんだよ。遊んでやっからありがたく思え」
 引退したといっても内部進学者は受験勉強とは縁がない、ヒマに任せて部活に顔を出す三年生はどこの部にもあふれている。丸井は赤也の物言いを咎めないかわりに、右手のラケットを大きくぐるりと回した。髪の先を鋭くフレームがかすめていき、赤也はまたひっと首をすくめた。
 その様子を見兼ねてか、ふいに柳生が赤也の目の前に片手を差し出した。見あげると、眼鏡のレンズの奥でかすかに目を細め、唇の端を優雅に持ちあげている。とうに見慣れたと思っていたのにこっちが赤面するような通り名に恥じない紳士っぷり、なんだか背中がむずむずすると同時に赤也は確かにきゅんとして、柳生の手につかまった。指きれいですね好きです柳生先輩、と日課みたいに(実際ほぼ日課となり果てている愛の告白は当たり前に軽口と大差なくなって柳生にはまるで信用がない)口走りそうになったけれど、丸井がすぐそこにいるのでいちおう我慢する。
 丸井は、王子様が迎えにきたお姫様みたいにうっとりと立ちあがった赤也をおもしろくもなさそうに一瞥してから、柳生に向き直った。
「今日なんだろ、仁王の誕生日?」
「さあ」
 赤也がついアホな聞き耳を立てずにいられなかった会話の続きをようやく丸井が口にし、しかし柳生はあっさり打ち切ろうとする。
「知らねえの?」
「なぜ知っていると思うんですか」
 柳生はめずらしく、うっすらと迷惑げな顔をした。きれいな眉間に寄るしわはそれ自体もうつくしく整っているんだなあと、赤也はとても納得した気分になる。
「自分の誕生日知らねえわけねえだろい、仁王?」
 柳生の肩を軽く叩くと、問題のある発言と甘い匂いを残して丸井はコートのほうへ歩いていってしまった。え? と赤也はまばたいた。思わず凝視した丸井の背中からは、いつもと同じ風船ガムの割れる音がする。
 え?
「またそういうつまらないことを言う……」
 ため息のように柳生の声がした。隣に立つ彼に視線を移すのを赤也は一瞬ためらった。おそるおそる見たその人は、柳生以外の誰にも見えなかった。しかし、仁王雅治の化けた柳生比呂士もまた、柳生比呂士にしか見えないのではなかったか。
「た、たんじょうび」
「はい?」
「おめでとうござい、ます?」
「私の誕生日は今日ではありませんよ」
 柳生はあきれたような、すこし困ったような顔をした。どさくさに握ったままでいた柳生(本当に?)の手を、赤也は慌ててはなした。
「俺、き、着替えてきます」
 回れ右をして飛び込んだ部室で見たものは、今日の日付だけが黒マジックで四角く塗り潰されたカレンダー。自分の生まれた日などどうでもいいと笑うならそれは仁王、几帳面で正確無比な正方形を描けるならそれは柳生。いま俺にやさしかったあれは誰だ、長くてあたたかいあの指、頭がくらくらする。
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