三日に一度くらい書けたらいいなの日記。たまにみじかい話も書きます。
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2025.05.06 Tuesday
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にゃんにゃんにゃんの日記念。
2008.02.22 Friday
(おお振り/アベミハでイズハマみたいな)
四時間目の授業が終わって教師が退室するより遥かに早く、三橋が教室を飛び出していった。休み時間に早弁をしては昼休みに購買に食料調達に走る田島ばりの、三橋にあるまじき俊敏な動きだったので、泉は興味本位であとを追ってみることにした。
廊下に出ると、普段は教室移動でも体育部活の着替えでも授業で当てられて答えるのでも漏れなくモタモタモタモタしているくせに、三橋の姿はすでに影も形もない。逃げ足だけは速いやつだけれどいまは不吉な笑みを浮かべたモモカンもこめかみに青筋立てた阿部もいない、つまり逃げる必要がない、自主的にでも素早く動けるのかと泉は妙な感心をした。
昼休みにダッシュで向かうところといえば購買しか思いつかないのでとりあえずいってみると、なんと奇跡的に人だかりのいちばん先頭に三橋の頭を見つけた。泉は思わずちいさくガッツポーズ、成長したな三橋!
人より先に購買にたどり着くことはおろか、群がる生徒たちをかきわけてショーケースを見にいくことも、おばちゃん焼きそばパン! と声を張り上げることもできなくてオロオロするばかりの三橋に代わり、彼の分も小銭を握りしめて田島か泉が人波に突入するのが常だったのに。
そんなに腹が減っていたのかと思えば微笑ましいような呆れるような、しかし三橋は今日は早弁はしていなかったはずだ。弁当を忘れたとも聞いていないが、と泉がすこしばかり首を傾げている隙に無事購買での目的を果たしたらしい三橋は、また慌てたようにどこかへ走っていく。何やってんだオレ、とセルフツッコミを入れつつ泉もまた追いかける。
そして行き着いたのは中庭の片隅、九組の教室の窓からも見えるちいさな花壇だった。微妙に放置されているせいで生徒が植えた花も自生の草も一緒くたに伸び放題の雑草畑と化しているその前に、三橋がしゃがみ込んでいる。
背中から近づいて覗いてみると、ああなるほど。雑草畑とほぼつながった状態の校舎の壁際の茂みの中に、黒や灰や焦げ茶の毛玉が四匹五匹。
「うわー子猫じゃん、ちっせー」
泉の声に、背後の気配をまるで察していなかったらしい三橋は、ふおっ!? と素っ頓狂な声を上げて目をまん丸くして振り向いた。その手に、半分ほど分解された購買のツナサンドと、パックの牛乳が握られている。
「猫って玉ねぎやっちゃだめなんだぜ確か」
「う、うん、平気。入ってない、よ」
三橋が力強く頷く。そういえば購買のツナサンドに挟まっているのはツナと玉ねぎではなく、ツナと千切りキャベツのマヨネーズ和えだ。マイルドすぎて物足りない、と浜田がぼやいていたのを思い出す。ツナキャベツだってうまいじゃんと泉田島三橋が購買サンドを擁護したら、味覚がお子様ですねえと薄笑いされたのも思い出してちょっとむかついた。
「こいつらここで生まれたの?」
「た、たぶん。オレも、きのうはじめて、気づいたから」
母親らしい成猫が一匹、子猫が五匹。ほかにも餌付けをしている生徒がいるのだろうか、ツナサンドをちぎっては地面に置く三橋の手元に、子猫たちはニーニー鳴きながらそれほど警戒心も見せずよちよち寄ってきている。茶トラの母猫だけが茂みの中から動かず、子猫の頭に三橋が手を伸ばした瞬間、牙を剥き出して激しく威嚇した。
三橋はヒッと手を引っ込めたが、それでもさわってみたくて仕方ないようだ。頭をくっつけ合ってツナサンドに齧りつく子猫たちと、眼光鋭く見据えてくる母猫の様子を交互に窺ってはもじもじしている。犬は苦手なようだが猫は平気なのだろうか。
「三橋猫好きなの?」
「かわいい、よね!」
「アイちゃんだってかわいいぞ」
「うっ。うう、う、うん」
三橋は思いっきり目を逸らして頷いた。思ってねえな。
子猫たちの食欲を見ていたら急にグウと腹が鳴って、泉は校舎を見上げた。九組の窓にクラスメートたちの姿がちらほら見える。職員室からか用務員室からかまさか生徒の弁当からなのか、ほんのりカレーの匂いがしたような気がした。
「三橋メシどうすんの」
訊くと、三橋は実にわかりやすくオタオタし始めた。そうだオレもごはん食べなきゃ午後の授業おなかすいちゃうし体重が阿部くんに怒られるでも猫が。猫さわりたい。三橋の思考が手に取るように読めて、泉はちょっと笑いそうになった。
「ここで食おうぜ。おまえの弁当も持ってきてやるよ」
提案してやると、ぱあと三橋の顔が輝いた。確かに投手としてだめかもしれないポーカーフェイスとまったく無縁のこのエース。
「それ入れる器もなんか探してくっから」
泉は三橋が持ったままのパックの牛乳を指さした。玉ねぎなしのツナサンドを選ぶあたり意外と頭を働かせているなと思ったが、牛乳はなんの容器もなくいつまでも持ちっぱなしなのでやっぱりあまり考えていなかったに違いない。泉の言葉に、三橋は感動したとばかりに目をキラキラさせた。
「ありがとう泉くん!」
見ているのも聞いているのもなんだか恥ずかしいのでとりあえず教室にいこうとすると、三橋が感動と興奮さめやらぬ様子のまま、携帯を取り出して子猫たちに向けた。母猫がまたすこし身構えて鋭く鳴いた。
「阿部くんに、見せようと思って」
「あーその必要ねえかも」
校舎から中庭へと出られる渡り廊下のほうを見ながら泉が言うと、三橋も不思議そうに振り返り、あ、と口をあけた。阿部がこっちへ向かってくる。阿部には三橋センサーがついていると以前田島が言った、またアホ言ってんなーとそのときはスルーしたが、案外ぜんぜんアホじゃなかったのかもしれない。
まあ実際センサーなわきゃないのだが、教室の窓から三橋(と泉)の姿が見えたから出てきただけなのだろうが、とりあえず上から声でもかけてみればいいのにわざわざソッコーきちゃうのか阿部。つい不憫なものを見る目をしてしまいつつ、阿部と入れ替わりに教室に戻ろうとしてふと思い立ち、泉は携帯で子猫たちを撮ってみる。
あ、ぶれた。しかもみんなメシに夢中で一心不乱に地面を向いているので、上から見ると毛玉が固まっているだけのよくわからん画像のできあがり。
まあいいかと適当な写真を眺めながら泉は校舎に向かった。浜田に見せてやろうと思う。あいつが猫好きかどうかは知らないけれど。
わああなんて雑な話…! 急ぎすぎましたすいません。でもいちおうにゃんにゃんにゃんの日に間に合った。
三橋って犬だけじゃなくて動物苦手っていう設定とかありましたっけもしかして。あったらすいません…。
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四時間目の授業が終わって教師が退室するより遥かに早く、三橋が教室を飛び出していった。休み時間に早弁をしては昼休みに購買に食料調達に走る田島ばりの、三橋にあるまじき俊敏な動きだったので、泉は興味本位であとを追ってみることにした。
廊下に出ると、普段は教室移動でも体育部活の着替えでも授業で当てられて答えるのでも漏れなくモタモタモタモタしているくせに、三橋の姿はすでに影も形もない。逃げ足だけは速いやつだけれどいまは不吉な笑みを浮かべたモモカンもこめかみに青筋立てた阿部もいない、つまり逃げる必要がない、自主的にでも素早く動けるのかと泉は妙な感心をした。
昼休みにダッシュで向かうところといえば購買しか思いつかないのでとりあえずいってみると、なんと奇跡的に人だかりのいちばん先頭に三橋の頭を見つけた。泉は思わずちいさくガッツポーズ、成長したな三橋!
人より先に購買にたどり着くことはおろか、群がる生徒たちをかきわけてショーケースを見にいくことも、おばちゃん焼きそばパン! と声を張り上げることもできなくてオロオロするばかりの三橋に代わり、彼の分も小銭を握りしめて田島か泉が人波に突入するのが常だったのに。
そんなに腹が減っていたのかと思えば微笑ましいような呆れるような、しかし三橋は今日は早弁はしていなかったはずだ。弁当を忘れたとも聞いていないが、と泉がすこしばかり首を傾げている隙に無事購買での目的を果たしたらしい三橋は、また慌てたようにどこかへ走っていく。何やってんだオレ、とセルフツッコミを入れつつ泉もまた追いかける。
そして行き着いたのは中庭の片隅、九組の教室の窓からも見えるちいさな花壇だった。微妙に放置されているせいで生徒が植えた花も自生の草も一緒くたに伸び放題の雑草畑と化しているその前に、三橋がしゃがみ込んでいる。
背中から近づいて覗いてみると、ああなるほど。雑草畑とほぼつながった状態の校舎の壁際の茂みの中に、黒や灰や焦げ茶の毛玉が四匹五匹。
「うわー子猫じゃん、ちっせー」
泉の声に、背後の気配をまるで察していなかったらしい三橋は、ふおっ!? と素っ頓狂な声を上げて目をまん丸くして振り向いた。その手に、半分ほど分解された購買のツナサンドと、パックの牛乳が握られている。
「猫って玉ねぎやっちゃだめなんだぜ確か」
「う、うん、平気。入ってない、よ」
三橋が力強く頷く。そういえば購買のツナサンドに挟まっているのはツナと玉ねぎではなく、ツナと千切りキャベツのマヨネーズ和えだ。マイルドすぎて物足りない、と浜田がぼやいていたのを思い出す。ツナキャベツだってうまいじゃんと泉田島三橋が購買サンドを擁護したら、味覚がお子様ですねえと薄笑いされたのも思い出してちょっとむかついた。
「こいつらここで生まれたの?」
「た、たぶん。オレも、きのうはじめて、気づいたから」
母親らしい成猫が一匹、子猫が五匹。ほかにも餌付けをしている生徒がいるのだろうか、ツナサンドをちぎっては地面に置く三橋の手元に、子猫たちはニーニー鳴きながらそれほど警戒心も見せずよちよち寄ってきている。茶トラの母猫だけが茂みの中から動かず、子猫の頭に三橋が手を伸ばした瞬間、牙を剥き出して激しく威嚇した。
三橋はヒッと手を引っ込めたが、それでもさわってみたくて仕方ないようだ。頭をくっつけ合ってツナサンドに齧りつく子猫たちと、眼光鋭く見据えてくる母猫の様子を交互に窺ってはもじもじしている。犬は苦手なようだが猫は平気なのだろうか。
「三橋猫好きなの?」
「かわいい、よね!」
「アイちゃんだってかわいいぞ」
「うっ。うう、う、うん」
三橋は思いっきり目を逸らして頷いた。思ってねえな。
子猫たちの食欲を見ていたら急にグウと腹が鳴って、泉は校舎を見上げた。九組の窓にクラスメートたちの姿がちらほら見える。職員室からか用務員室からかまさか生徒の弁当からなのか、ほんのりカレーの匂いがしたような気がした。
「三橋メシどうすんの」
訊くと、三橋は実にわかりやすくオタオタし始めた。そうだオレもごはん食べなきゃ午後の授業おなかすいちゃうし体重が阿部くんに怒られるでも猫が。猫さわりたい。三橋の思考が手に取るように読めて、泉はちょっと笑いそうになった。
「ここで食おうぜ。おまえの弁当も持ってきてやるよ」
提案してやると、ぱあと三橋の顔が輝いた。確かに投手としてだめかもしれないポーカーフェイスとまったく無縁のこのエース。
「それ入れる器もなんか探してくっから」
泉は三橋が持ったままのパックの牛乳を指さした。玉ねぎなしのツナサンドを選ぶあたり意外と頭を働かせているなと思ったが、牛乳はなんの容器もなくいつまでも持ちっぱなしなのでやっぱりあまり考えていなかったに違いない。泉の言葉に、三橋は感動したとばかりに目をキラキラさせた。
「ありがとう泉くん!」
見ているのも聞いているのもなんだか恥ずかしいのでとりあえず教室にいこうとすると、三橋が感動と興奮さめやらぬ様子のまま、携帯を取り出して子猫たちに向けた。母猫がまたすこし身構えて鋭く鳴いた。
「阿部くんに、見せようと思って」
「あーその必要ねえかも」
校舎から中庭へと出られる渡り廊下のほうを見ながら泉が言うと、三橋も不思議そうに振り返り、あ、と口をあけた。阿部がこっちへ向かってくる。阿部には三橋センサーがついていると以前田島が言った、またアホ言ってんなーとそのときはスルーしたが、案外ぜんぜんアホじゃなかったのかもしれない。
まあ実際センサーなわきゃないのだが、教室の窓から三橋(と泉)の姿が見えたから出てきただけなのだろうが、とりあえず上から声でもかけてみればいいのにわざわざソッコーきちゃうのか阿部。つい不憫なものを見る目をしてしまいつつ、阿部と入れ替わりに教室に戻ろうとしてふと思い立ち、泉は携帯で子猫たちを撮ってみる。
あ、ぶれた。しかもみんなメシに夢中で一心不乱に地面を向いているので、上から見ると毛玉が固まっているだけのよくわからん画像のできあがり。
まあいいかと適当な写真を眺めながら泉は校舎に向かった。浜田に見せてやろうと思う。あいつが猫好きかどうかは知らないけれど。
わああなんて雑な話…! 急ぎすぎましたすいません。でもいちおうにゃんにゃんにゃんの日に間に合った。
三橋って犬だけじゃなくて動物苦手っていう設定とかありましたっけもしかして。あったらすいません…。
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