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三日に一度くらい書けたらいいなの日記。たまにみじかい話も書きます。
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恋の万里
(仁王と幸村)

「たぶん病気なんだ」
 と、幸村は言った。そりゃそうじゃろ、入院中の身ィがなんを抜かしよるか。
「めまいがひどくてね」
 うっすらと寄せた眉根に人差し指をあて、うつむいてそっと溜め息する。くっきりと黒いまつげが美しい、と思った。
(うん? おかしいの)
 幸村のベッドの上に我が物顔で座ったまま、仁王はすこし首を傾げる。普段、美しいものになどまるで興味は持てないのに。
 病室を訪れてすぐ、窓際に並んだ丸椅子を取りにいくのが面倒でベッドの上に座ることを選んだ仁王を、幸村は穏やかに笑った。ブン太も同じことをしたよ。それで婦長さんに怒られていた。
「真田はなんも言わんかったんか」
「ブン太と赤也がふたりだけできてくれたことがあってね」
「そりゃあやかましそうじゃの」
「楽しかったよ。だけど授業を抜け出してきていたみたいだった。ふたり揃って自習だなんて、ねえ?」
 幸村は愉快そうに笑った。きみならどんな上手な嘘をつくの、と訊いた。
「カンニングばバレて教室から叩き出されたけえ、ヒマんなったっちゃ」
「壮絶だね」
「序の口」
 幸村はまた笑った。眉間の憂いはすっかり消えていた。
 仁王は携帯で時刻を確かめる。電源を切り忘れていたことに気づいたが、いまさら、とためらいも罪悪感もなくそのまま制服のポケットに戻す。
「またくるけえ」
 仁王がベッドからおりると、幸村の笑みはたちまち引いた。惜しむのではなく責めるまなざしを剥き出しに、仁王を見た。
「仁王はどうしていつもひとりでくるの」
 仁王はとても驚いた。意味がわからなかっ、
「期待するよ?」
 いや、わかっていた。
「何をじゃ」
 笑って言って、仁王はベッドから離れる。我ながら上手くない手じゃ、と素直に思った。仁王が病室のドアをあけるのと同時に、うしろから悲鳴のような幸村の声がした。
「きみがそこから入ってくるのを見ると、僕はめまいがする!」
 仁王は足早に病室を出た。病院も出た。制服のポケットで携帯が鳴っている。幸村からだろう。卑怯でごめんね、と泣くのだろう。
 そして、臆病な仁王は、携帯に出ないまま家路を急ぐ。
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