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三日に一度くらい書けたらいいなの日記。たまにみじかい話も書きます。
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微々と笑む
(柳と柳生)

「彼は私の話などまるで聞きません」
(ジェントルピロシはわしの話なんぞ一秒も聞かん)
「良識的にすぎて理解できないので聞いても無意味に思えるのだそうです」
(非常識じゃけえ聞くだけ無駄ち、普っ通のツラして抜かしよる)
「良識を理解できないなど人として大変正しくないと思いますが、」
(無駄ァ言われて話す口ば持っちょらんき、)
「ならば話す労力を惜しんでも罰は当たらないというもの」
(最近ようしゃべらん)
 今朝教室で、言葉とは裏腹にひどく愉快げな笑みを浮かべた仁王を思い出しながら、柳はいま部室で目の前にいる柳生に向かってため息をついた。ふたりの話を総合すると、彼らは最近ろくに口をきいていないと、それだけのことだ。
 どうでもいいな、と0.1秒で柳は思った。ダブルスを組む上では問題があるだろうが、そして参謀としては改善策を講じて然るべきなのだろうが、実にどうでもいい。というかこれは決して相談や助言を求める類いのものでなく、ただの愚痴だ。紳士が涼しい顔で、詐欺師が薄ら笑いで、揃ってくだらない事実をお聞かせくださっている。耳によくない。
「暇潰しなら弦一郎相手にやってくれないか」
「はい?」
「いや。仁王がおまえをピロシと呼んでいたぞ」
 思わず真田を売ろうとして、柳は一応思いとどまる。ピロシ、と聞いて柳生は微かに口の端を吊り上げた。
「彼の嫌がらせはレベルが低いんですよ」
「柳生、すこし仁王に似てきたな」
「どこがです?」
 柳生の微笑が底なし沼みたいに深まった。一見優しげだが勘の鋭いこどもなら泣くかもしれないな、と興味深く分析しながら、柳は超然と答える。
「腹を立てると笑うところが」
「気のせいですよ」
 途端に余韻のかけらもなく笑みを引っ込めて、柳生はラケットを手に部室を出ていった。
 柳はそれきり、コートでボールを追ったりデータを収集したり英語の過去問貸してくださいと赤也に泣きつかれたりしているうちに、そんな会話をしたことすら忘れたが、夜、珍しく柳生からメールがきた。タイトルはなく、本文はたった六文字。
『気のせいです』
 案外しつこい。
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