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三日に一度くらい書けたらいいなの日記。たまにみじかい話も書きます。
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全部嘘、全部嘘
(P4/主花主)

 踏み出す一歩がこんなにもおそろしいとは。
 道を歩けば靴底がアスファルトを擦ること、普段まるで意識にのぼらないそんなかすかな揺れにさえたががはずれてしまう気がして、月森は黙々とビフテキ串を噛みちぎりながら歩く。ただ唇を引き結ぶよりも食うことを選んだのは、そのほうが黙っていられるように思えたからだ。口の中に食べ物を入れたまましゃべってはいけません。行き届いた常識教育をありがとうお母さん、買い食い歩き食いはどうか大目に見てください。
 おそろしいほどに、苛々している。理由は考えない、(なぜなら考えるまでもない)、そして決して語らないと月森は決めた。何を言っても悲惨なことになる、花村には聞かせられない。
 花村は自分でビフテキコロッケを買っておきながら持て余すように手をつけないまま、月森の横を、人ひとり分ほどの間隔をあけて同じ歩幅で歩いている。笑顔もゆるさもないが不機嫌とは見えず、月森の様子を窺う素振りもなく、腹減ってないのに余計なもん買っちった、と百五十円を惜しんでいるのだと言われればもっとも納得がいく。ふうと短くため息をついてから月森を見た顔には、お前のビフテキ串につられたんだからな! という毒にも薬にもならない非難が浮かんでいるようにすら見えた。
「いる?」
 前ぶれなく花村が差し出したのは右手のコロッケではなく、一度ズボンのポケットに入れてからまた出した左手だった。月森はビフテキ串をくわえたまま手を伸ばし、『おいしいグミ』と自信に満ちあふれた商品名の書かれた開封済みのカラフルなパッケージを受け取る。たぶんクマからのおすそわけ。の、横流し。
 なぜ今日はのど飴じゃないのだろうと月森はすこし首を傾げ、目の合わない花村の横顔を見る。ふと、以前彼と交わしたたわいない会話がよみがえった。まだ出会って間もないころのことだったように思う。「グミって喉につまるような気がしないか」「や、しないけど」「俺はものすごくつまったことがある」「(失笑)」
 喉がつまれば言葉は出ない。
 グミの袋を制服のポケットに押し込んで、月森は目を伏せる。ビフテキ串の肉は全部月森の腹の中におさまって、ただの串になってしまった。
「ごめん、花村」
 やっとコロッケをかじり始めた花村は、唇に細かくついた衣を舐め取りながら月森を見た。
「いやな思いさせてごめんな」
 花村は返事をしなかった。惣菜大学のおばちゃんに土下座したくなるほど、おいしくなさそうにコロッケを食べ続けていた。自分もさっきビフテキ串を相手に同じ顔をしていたのだろうと月森は思う。おばちゃんが塩と砂糖をまちがえたのではなく自分たちの心持ちが食べ物の味を貶めているのだから、本当に失礼な話だ。
 黙っていても本音をぶちまけても花村を傷つけるのだから、本当に、ひどい話だ。



***
意味がわからない…のはいつものことなので置いといて、そのうち同じタイトルの話をちゃんと更新用に書きます。これにいろいろ付け足してもうちょっと意味の通る感じにしたのを。
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